「あとかたづけ」平元文雄

「あとかたづけ」平元文雄

 先日の豊積カップでこんなことがありました。

Sくんの弟が応援に来ていました。体の具合が悪かったのでしょうね。寒いのにテントの中で寝ていました。少し動き出したとたん、おなかの中のものを出してしまいました。嘔吐です。「だいじょうぶか」そう声をかける人はたくさんいました。でも、黙ってティッシュや雑巾を持ってきてその嘔吐物を片付けるあるお父さんがいました。普通、気持ちが悪くて、なかなかできないことです。私なら、女の人に頼んで「後きれいにやっといて」と言っていたでしょう。そのお父さんは本当にいやな顔ひとつせず、黙ってきれいに後片付けをしてくれたのです。人が嫌がることを率先してできるそんな人になりたいものだなあと思いました。


児童文学作家の斉藤隆介さんが著書「ひさの星」のあとがきでこんなことを書かれています。

 

「ひさの星」に添えて

 

斉藤 隆介

 

  蛍は、濡れた草の葉にとまって、息をするように微かに光ったり消えたりします。とろうと手をふれると、ポロリともろくも水の上に落ちます。天の蛍、星は青 白くまたたき息づきますが落ちるようなことはなく、人々はその輝きをふり仰ぎます。ひさは、蛍のようにかそけくしずかな少女でした。そのひさが水に落ちて 流され、そして天の星になったか、それがこのお話です。小さいもの、弱いもの、仲間たちは、自分の命を捨てても守らなければならない!と声高く叫んでその 道をつき進む人は立派です。しかし、黙ってその道を歩いていく人もいます。ひとにほめられたりしたら頬を赤くするのです。そういう人たちが、私には星のよ うに輝いて見えます。声高く叫ぶ人の声がかれ、歩くのをやめる時も、この人たちは黙って歩き続けます。時には死に向かってさえも。今は声高く叫ばなければならぬ時かもしれません。しかしその人たちの心のシンに、星のように黙って輝くやさしさが、ほんとうの強さの核となって、更にその歩みを続けさせてほしいと私は願います。