「子どもへの信頼」平元文雄

「子どもへの信頼」平元文雄

 卒団式が近づいてきました。昨年は挨拶の中で、私が300回以上献血をしていることをお話ししました。毎年、同じ話をすることはできません。いつもどんな話をしようかと悩んでしまうのですが、今年は菩提寺サッカースポーツ少年団のOBであるH君の話をしようと思い立ちました。
 
 Hくんはもう30歳ぐらいになっていると思います。彼はサッカーがとても上手な子どもでした。 6年生の時にトレセンの選考があり、彼は合格しました。でも、いざトレセン練習が始まる時になって、「トレセンやめたい」といってきました。理由を尋ねると、「6年のみんなと別れて練習したくない」ということでした。その当時はトレセン練習と団の練習が重なることが多かったのでしょうね。でも、選ばれたら勿論、トレセンの練習が優先です。
 「そんなん言うのだったら、最初から受けんなよ」と思いましたが、本人は合格するとは思っていなかったのかもしれません。トレセンに選ばれたこと、その中で練習していくことに不安がきっと募ったのでしょう。
 今までになかったことでしたが、私は、「分ったよ」と言って、トレセンスタッフに辞退の連絡をしました。

 それから何年か経ちました。
 彼が大学卒業間際に、彼の友人から連絡を受けました。「Hくん、就職内定してたんだけど、それをけって海外に行く」と言っているとの電話がありました。近所のサッカー仲間からでした。私は急いで本人に電話をしました。「就職は内定しているんだけど、やっぱり、自分探しの旅に出てみる」とのことでした。
 本人の意志は固かったです。お母さんともかわってもらって、お話しさせてもらったら、「先生、就職も内定して、私も安心していたのに、急に海外に行くんやと言うのです。自宅から通える県内の就職先だし、先生からも、就職するように言ったって」とのことでした。
 でも、私は彼の意志がとても固かったし、明確な目的を持っているように思ったので、その決断を支えてあげたいと思い、お母さんには、「行かしてあげてください」と伝えました。

 

 彼は大学卒業後、2年間オーストラリアへ『自分探しの旅』に出ました。
 英語も上手にしゃべれるようになって帰ってきました。日本では感じ取れない異文化にもたくさん触れて帰ってきたことでしょう。
 そして、私にはヘッドギアの付いたぬいぐるみをお土産に買ってきてくれたのです。
 そのぬいぐるみを見て私は彼の温かさにも触れることができました。この『自分探しの旅』はよかったなと思いました。


 今、彼は東京で就職して仕事頑張っているようです。2年前、同学年のサッカー仲間と一緒に飲みました。しゃべりました。Hくん、とてもたくましい好青年に成長していて嬉しくなりました。一歩一歩の前進を共に喜び合ったものでした。


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コメント: 1
  • #1

    たなかさとる (金曜日, 12 2月 2016 22:23)

    お話にあった「子どもへの信頼」読ませていただきました。「自分探しの旅」イコール「チャレンジ(挑戦)」と思います。平元先生の日頃の生き方やそこから生まれる子どもたちへの声かけの言葉をH君を通して見させていただいたような気がします。何歳になっても、前向きな平元先生の姿が浮かんできます。目の前にあるのは強靱な壁ではなく、たたけば開くドアだと思って私も日々悪戦苦闘しています。